わらしべ長者プロジェクト「わらしべ長者」といえば、一本のわらを手にした男が物々交換を重ねて大金持ちになった昔話だ。昨年7月、新潟県中越沖地震の直撃を受けた柏崎・刈羽地域では、 子供たちが描いた「未来予想図」が大人たちの心を動かし、 国境を越え、争いや貧困に苦しむ世界の子供たちを救おうとしている。 題して「心のわらしべ長者」作戦だ。(永岡栄治) 未来予想図プロジェクトの仕掛け人は、 柏崎市小倉町でホリスティック医療(患者主体型医療)の治療院を開く下條茂さん(43)。 下條さんは自ら被災しながらも、震災直後に託児所を開設するなど、 復興を手助けしてきた。仮設住宅で暮らす人々の様子が気になり、 地震発生からちょうど5カ月の12月16日から毎月、 会報「はちどり通信」を1600部刷り、3日間かけて仮設住宅を1軒ずつ回った。 隣の家族が出ていき、取り残されたような気持ちになったおばあちゃん。 子供たちの元気のなさにも心を痛めた。 災害心理学によると、被災者が連帯ムードに包まれた「ハネムーン期」から、 心が落ち込む「幻滅期」に移行するころ。悲観して命を絶つ人も少なくないという。 そこで、下條さんが思いついたのが絵画療法だった。 柏崎・刈羽地域の保育園児から高校生までを対象に今年2月、 まちの未来予想図を募ったところ、560点も集まった。 「僕らが子供のころは近未来的な世界を思い浮かべていたが、 多くの子供たちが山や川、海などの自然や、家族や友達との当たり前の暮らしを描いていた」。 下條さんらは子供たちの絵に深い感動を覚えた。 作品は、柏崎青年会議所が3月10日に開いた講演会「震災からの心の復興~キセキの一日」で審査。 同プロジェクトの実行委員会は、入選作54点を冊子「みんなの未来予想図」(1000円)にまとめ、販売した。 これが出発点となり、実行委は冊子の売り上げ27万円を元に、 インターネットを通して全国の子供たちから「日本未来予想図」を募集した。 今月1、2日、東京の「表参道・新潟館ネスパス」で「被災地からの恩返しプロジェクト」と銘打ち、 応募作品1620点の中から絵本作家らが選んだ120点を並べた。 学校に甲状腺障害を防ぐヨウ化カリウム丸が常備されるなど、 原発のそばで暮らす子供たちの実態もパネルで説明、 電力供給を受ける首都圏の人に知ってもらった。 「柏崎って、まだ復興していないの?」。 下條さんは来場者から何度もこう言われた。 「街は空き地だらけで、取り残されたように感じている人も多い。 復興はこれからが本番なのに…」。下條さんは、地震の風化を痛感した。 この試みと並行し、戊辰戦争に敗れて窮乏していた長岡藩が、 支藩から送られた米百俵を売って学校を建てた逸話にちなみ、 「平成の米百俵プロジェクト」を計画した。 柏崎市内の田んぼを借り、市内外の子供約70人が懸命に草取りして収穫した無農薬はざかけ米100俵を 市価の4割程度で販売、ほぼ完売した。 その収益120万円が、海を越える。 フィリピン北部山岳地方のコーディリエラで、植林や先住民の環境教育に取り組むNGO(非政府組織) 「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク」に寄付するのだ。 NGO代表理事の反町真理子さんは、 サッカーJリーグ「アルビレックス新潟」の監督を務めた反町康治さんの妹だ。 現地では、レイプ被害に苦しむ女性や子供たちの避難シェルター建設に充てられる。 実行委は、現地の子供たちに画用紙とクレヨンを送り、村の未来予想図を描いてもらった。 その絵を1枚500円で買い取り、来年2月21~25日、柏崎市内で「第1回世界未来予想図展」を開く。 そこでの売り上げはエイズの蔓延(まんえん)に苦しむタイの子供たちの支援に役立て、 今度は、その子たちに未来予想図を描いてもらう。 子供たちの未来予想図をツールに、世界に支援の輪を広げていく、まさに「心のわらしべ長者」作戦だ。 下條さんは夢想する。 「各国の子供たちが描いた未来予想図で、世界の美術館を回りたい。 地震から10年後に、柏崎で『第8回世界未来予想図展』を開くのが、今から楽しみでなりません。」 ◎被災地から世界へ 広がれ未来予想図 子供たちの絵で「わらしべ作戦」 新潟 2008.11.22 03:14産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/region/chubu/niigata/081122/ngt0811220315000-n1.htm |